ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第10話 常しえの蜜月】

 よろよろとした足取りで、リーゼロッテは浴室に足を踏み入れた。
 湯煙の中、羽織っていたガウンのひもを(ほど)く。首筋から胸元にまで、鏡に映った肌の上、赤い(あと)がいくつも散らばっていた。ジークヴァルトにつけられたものだ。動揺のあまり、咄嗟にガウンを着直した。

「そんなに恥ずかしがることはございませんよ。ここは託宣の神事を終えたおふたりが、初めての夜を過ごすための館ですから」

 後ろからラウラがガウンを脱がせてくる。ジークヴァルトが言うように、あの泉での神事は初めから夫婦の誓いを立てるためのものだったようだ。
 今の自分の姿はラウラにとって見慣れた光景なのかもしれない。それでも何とも言えないこの恥ずかしさは、とてもではないがぬぐえそうもなかった。

「聖杯様にはやさしくしていただけましたか?」
「……ええ」

 目を逸らし、小さく返事をする。微笑ましそうな表情で、ラウラは手際よくリーゼロッテの体を清めていった。

「少し湯船で温まりますか?」
「そうね、そうするわ」
「果実水がここにございますから、水分はこまめにおとりくださいね。何かございましたら、その紐を引いてお呼びください」

 ラウラが出ていって、おぼつかない足取りで湯船へと身を沈めた。
 本当にジークヴァルトと身をつなげてしまった。展開が突然すぎて、すべては自分の妄想だったのではないかと疑いたくなる。何が何やらでされるがままだった。
 だが股の間にいまだに何かが挟まっている。そんな抜けない異物感が、これはばっちり現実なのだと訴えかけてくる。

 初めてジークヴァルトを受け入れるときは、正直怖かった。あんな大きくて長くて硬くて太いもの、絶対に入らないと思ったし、実際に入れられるときはものすごく痛かった。それなのに――

(めちゃくちゃ気持ちがよかったっ)

 ざばっと湯を顔にかぶせると、赤い顔のまま口元まで湯船に沈ませた。ぶくぶくと泡を吐きながら、打ち震える羞恥に身もだえる。

 初めては痛いだけだと聞いていた。だというのに途中からは訳が分からなくなって、あんあんとジークヴァルトにしがみついていた。その勢いのまま記憶を失くしてしまえばいいものを、ジークヴァルトがどう触れて、自分がどんな反応を返したのか、一部始終がくっきりはっきり記憶に残っている。

(ヴァルト様に淫乱だと思われていたらどうしよう)

 処女だったことは間違いなく伝わったはずだ。だが夕べの自分の反応は、とても初体験とは思えない痴態っぷりだった。これも異世界チートなのか。触れられる場所すべてが快楽を拾い上げ、思い出した今でも体が(うず)いてしまう。

 このあとどんな顔をしてジークヴァルトに会えばいいのだろうか。それが分からなくて、いつまでもうだうだと湯船に浸かっていた。
 のぼせる寸前のところを、生温かい瞳のラウラによって、有無を言わさず引き上げられたのだった。

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