ふたつ名の令嬢と龍の託宣

第2話 若奥様の奮闘

 ジークヴァルトはいつでも自分を見ている。本当の意味でそう思ったのは、夫婦となって毎晩一緒に眠るようになってからだ。

 再会したての初めのころは、よく目が合うなくらいの感覚だった。だが思い返すとどうだろう? ジークヴァルトの顔を見て、自分を見ていなかったときの方が数少ない気がした。

 ふと夜中に目覚めたときも、いつだって青い瞳はこちらに向けられている。やさしく口づけられて、眠りの(ふち)に落ちていく。それがとてもうれしくて――


 人の気配がして身を起こした。ぼんやりと青を探す。触れた隣のリネンに、残る温もりはなかった。

「おはようございます。奥様、お目覚めになられましたか?」
「おはよう、エラ。ジークヴァルト様は……?」
「今朝も早くに執務に行かれました」
「そう……」

 昨夜は先に寝てしまい、途中目覚めることもなく、そのまま朝を迎えてしまったようだ。寝台を降り、エラとともに身支度を始める。月のものでないときに、ジークヴァルトと身を(つな)げなかったのは初めてかもしれない。

(わたしが眠っていたから、起こさないでいてくれたのね)

 それでも戻ってきたときに、ひと声かけてほしかった。夕べは顔すら見られなくて、それが何だかさみしく思えてしまう。

「せめて夜中に目覚めればよかった……」

 そうすればあの青の瞳にキスしてもらえたのに。

< 2,007 / 2,019 >

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