ふたつ名の令嬢と龍の託宣

第3話 お披露目の夜会

 レルナー公爵家に到着し、案内されたのは広間から離れた一室だった。入るなりツェツィーリアが飛びつくように駆け寄ってくる。
 今日のツェツィーリアは夜会用のドレス姿だ。しばらく会わないうちに、ずいぶん背が伸びた気がする。義弟(ルカ)との婚約もあり、淑女教育に励んでいるとリーゼロッテは聞いていた。

「リーゼロッテお姉様!」
「ツェツィーリア様、ご無沙汰しておりますわ」
「お姉様……今日はずいぶんと控えめなドレスなのね。もっと華やかなものにすればよかったのに」
「ツェツィーお嬢様、その前にお伝えすべきことがございますでしょう?」

 後ろで控えていた長身の男が、飄々(ひょうひょう)とした態度で口をはさんでくる。

「そんなこと、グロースクロイツに言われなくても分かっているわ」

 つんと顔をそらしたあとスカートをつまみ上げ、ツェツィーリアは優雅な所作で淑女の礼をとった。

「ジークヴァルト様、リーゼロッテ様、このたびはご結婚おめでとうございます。心よりおよろこび申し上げますわ」
「ああ」

 ジークヴァルトが素っ気なく返すと、ツェツィーリアはその腕にぎゅっと抱きついた。

「お姉様がヴァルトお兄様の家族になったのだから、お兄様ももうわたくしの本当のお兄様ね!」

 ツェツィーリアは実の両親を亡くしている。養子に入った叔父夫婦の元で、いまだ愛情に飢えているのだろうか。そう思うと、リーゼロッテの心は切なく痛んだ。
 しかしツェツィーリアの今日の(よそお)いは、公爵令嬢として相応(ふさわ)しいものだ。使用人にすらぞんざいに扱われていた待遇は、婚約が決まって改善されたのかもしれない。

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