ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第5話 魔王の晩餐】

(……暇だわ )

 カイが帰っていった後、預かった小箱と手紙を直接カイに手渡せたことをアンネマリーへの(ふみ)にしたため、遅めの昼食をとったリーゼロッテは、そのあと何もやることがなくなってしまった。
 今は公爵家のサロンでティータイム中だ。ぽかぽかとした日差しが心地よい。

 それにしても、とにかくやることがない。ジークヴァルトがいないと力の制御の特訓もできないし、作成途中の刺繍(ししゅう)はエラがいないため、難易度(なんいど)の高いところで頓挫(とんざ)中だ。

 エマニュエルは子爵家で用事があると帰っていったので、話し相手になる人間もいない状況だった。

(わたしってひとりじゃ何もできないのね)

 こんなことなら本の一冊でも持ってくればよかったと、座り心地のいいソファに腰かけながら、リーゼロッテはふぅと小さくため息をついた。

 広いサロンを見渡すが、ここには自分ひとりしかいない。カークだけが壁際(かべぎわ)で背筋を伸ばしてリーゼロッテを見守っている。

 開け放たれたサロンの扉の向こうで、時折使用人たちが忙しそうに廊下を通り過ぎていく。みな仕事をしているのだ。そう思うと、何もせずだらだらと過ごす自分が、居心地(いごこち)悪く感じてしまう。

 最近の事であるが、公爵家の屋敷の中で自分には必ず護衛がついていることに気がついた。それはエーミールだったり、ヨハンだったり、自分の視界に入らないところで、常に自分は誰かしらに守られているようだった。気づかなかっただけで、これまでもずっと護衛がいたのかもしれない。

 自分勝手に動き回るのはいろいろと迷惑になるだろう。客人らしくおとなしくしていなくては。

(ジョンに会いに行けないのはさびしいけど……)

 無意識に力を使い果たしてしまったあの日から、泣き虫ジョンには一度も会いに行っていない。しばらくジョンには近づかないように言われているし、認めたくはないが、自分が動くと何かしらの騒ぎがおこっているように思えてならなかった。

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