ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「リーゼロッテ。今こうして、お前の父としてこの手を引いていることを、心から嬉しく思う。ここまでよく(すこ)やかに、真っ直ぐに育ってくれたね。本当に感謝するよ」
「お義父(とう)(さま)……」
「いいかい、リーゼロッテ。ここから先、お前が旅立つ社交界には、心ないことを言う人間も多くいるだろう。だけれど、このことは忘れないでおくれ。お前はわたしたちの自慢の娘だ。そのことだけは、誰に何を言われようとも胸を張っていてほしい」
「はい……はい、フーゴお義父様……」
「おや、泣いてはいけないよ。せっかくエラにきれいにしてもらったのだから。さあ、クリスタも向こうで待っている。まずは王に成人としてきちんと挨拶をしに行こう」
「はい、お義父様」

 最上級の淑女の笑みと共に、リーゼロッテは差し出されたフーゴの(ひじ)へとそっと手を添えた。

 やがて(おごそ)かに名が呼ばれ、目の前の大きな扉がゆっくりと開け放たれる。


 ――(りゅう)(れき)八百二十八年、リーゼロッテは華やかな社交界へと、今、その足を踏み入れた。



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