ふたつ名の令嬢と龍の託宣
【第12話 白の夜会 -前編-】
デビュタントのための舞踏会である白の夜会は、王城にある夜会専用の広間で行われる。
年に一度開催されるこの夜会には、国中の貴族が参加するため、広間は豪華絢爛を極めていた。己の威信をかけて着飾った紳士淑女たちが一堂に会するその様は、どの夜会よりも見目麗しく華やかなものだ。
ある者は互いの装いを褒めそやし合い、ある者は初々しいデビュタントたちに好奇の視線を向ける。紳士の多くは政治や領地経営を語り、淑女のほとんどは噂話という名の情報交換に熱が入っていた。
また、良縁を求める貴族は、お互いに物色し合いながらその距離を測り、いたるところで駆け引きが行われている。これはどの夜会でもよく見る光景だ。
しかしこの白の夜会は、あくまでデビュタントたちが主役である。デビューを果たす者は、父親や後見人を務める貴族と共に参加する。
この夜会で社交界デビューを迎える者は、ひとりひとり王族に挨拶するのがしきたりとなっていた。王に声をかけてもらってはじめて、貴族の一員として認められるのだ。
「挨拶の順番もようやく子爵家に入ったようね」
「ここ数年は男爵家のデビュタントが多くて……本当に微笑ましいこと」
挨拶に上がるデビュタントたちをひとりひとり丁寧に論評していたご夫人方が、扇で口元を隠しながら囁き合う。
王族への挨拶は、爵位の低い者から順に行われる。今期、デビューを果たす令息令嬢の半分以上を、男爵家が占めていた。
「ディートリヒ王は慈悲深い方でいらっしゃるから、その恩恵に預かれた者は幸運ね」
「ええ、本当に。良き王に恵まれて、わたくしたちも誇りに思わなくては、ね」
「ほら、ご覧になって。あの栗毛の男爵令嬢、危うく転びそうになって可愛らしく頬をそめていらっしゃるわ」
「まあ、なんて初々しい。きっと慣れない場所で緊張なさっているのね。それにあの方、お召しのドレスがとてもよくお似合いじゃなくって?」
「あんなにカラフルなフリルがたくさんついたドレスは、なかなかお目にかかれないわね。きっと新進気鋭のデザイナーにおたのみになったのよ。とても斬新だわ」
ディートリヒ王が平民に男爵位を与えるたびに、そのことをよく思わない貴族も多かった。一代限りの爵位を貴族と認めない者すらいる。
この会場でも、社交界慣れしていない低爵位の者を、着飾った言葉で貶める会話がそこかしこで繰り広げられていた。
年に一度開催されるこの夜会には、国中の貴族が参加するため、広間は豪華絢爛を極めていた。己の威信をかけて着飾った紳士淑女たちが一堂に会するその様は、どの夜会よりも見目麗しく華やかなものだ。
ある者は互いの装いを褒めそやし合い、ある者は初々しいデビュタントたちに好奇の視線を向ける。紳士の多くは政治や領地経営を語り、淑女のほとんどは噂話という名の情報交換に熱が入っていた。
また、良縁を求める貴族は、お互いに物色し合いながらその距離を測り、いたるところで駆け引きが行われている。これはどの夜会でもよく見る光景だ。
しかしこの白の夜会は、あくまでデビュタントたちが主役である。デビューを果たす者は、父親や後見人を務める貴族と共に参加する。
この夜会で社交界デビューを迎える者は、ひとりひとり王族に挨拶するのがしきたりとなっていた。王に声をかけてもらってはじめて、貴族の一員として認められるのだ。
「挨拶の順番もようやく子爵家に入ったようね」
「ここ数年は男爵家のデビュタントが多くて……本当に微笑ましいこと」
挨拶に上がるデビュタントたちをひとりひとり丁寧に論評していたご夫人方が、扇で口元を隠しながら囁き合う。
王族への挨拶は、爵位の低い者から順に行われる。今期、デビューを果たす令息令嬢の半分以上を、男爵家が占めていた。
「ディートリヒ王は慈悲深い方でいらっしゃるから、その恩恵に預かれた者は幸運ね」
「ええ、本当に。良き王に恵まれて、わたくしたちも誇りに思わなくては、ね」
「ほら、ご覧になって。あの栗毛の男爵令嬢、危うく転びそうになって可愛らしく頬をそめていらっしゃるわ」
「まあ、なんて初々しい。きっと慣れない場所で緊張なさっているのね。それにあの方、お召しのドレスがとてもよくお似合いじゃなくって?」
「あんなにカラフルなフリルがたくさんついたドレスは、なかなかお目にかかれないわね。きっと新進気鋭のデザイナーにおたのみになったのよ。とても斬新だわ」
ディートリヒ王が平民に男爵位を与えるたびに、そのことをよく思わない貴族も多かった。一代限りの爵位を貴族と認めない者すらいる。
この会場でも、社交界慣れしていない低爵位の者を、着飾った言葉で貶める会話がそこかしこで繰り広げられていた。