ふたつ名の令嬢と龍の託宣

【第13話 白の夜会 -後編-】

「特にお怪我はしておられないようですな」

 リーゼロッテを診察していた老齢の医師が、ジークヴァルトを振り返った。

「ただし慣れない靴で少し足を痛めておいでのようです。歩くには支障はないでしょうが、今日の所はあまりご無理なさいませんよう」

 それだけ言い残すと医師は頭を下げて部屋を()していった。

 ここは夜会の会場にある休憩室の一室だ。その中でも広く豪華な部屋に通された。公爵であるジークヴァルトへの待遇だと考えれば納得もいく立派な部屋だ。

「ジークヴァルト様。先ほどは危ないところをありがとうございました」

 デビューの舞踏会で子供抱きにされて運ばれるなど、ものすごく恥ずかしかったが、助けてもらったことはまた別問題だ。リーゼロッテは立ちあがって淑女の礼をとった。

「いい。座って休んでいろ」

 そう言いながらジークヴァルトはリーゼロッテをソファへと座らせ、次いでテーブルの上にあった菓子をひとつつまみあげた。

「あーん」

(うん……そう来るわよね)

 いつ何時(なんどき)もぶれないジークヴァルトに、あきらめの境地でリーゼロッテは口を開いた。エラが後ろでニコニコしながら立っているが、夜会の会場でやられるよりも何万倍も気が楽と言うものだ。そのエラの横にはエーミールが表情を変えず腕を組んで立っている。

 さすが、王家主催の夜会、休憩室に置いてあるお菓子も一級品だ。疲れた体に糖分が染み渡る。黙ってもくもくと口を動かしていると、部屋の扉がたたかれた。

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