悪魔の僕は天使の君に恋をする
* * *

「ここがルナ兄の家か。狭いな~」


ヨルは部屋に入ると、ルナの座椅子に腰掛けた。


「でもこの部屋の物って、全部魔界から支給されたんだよね。そう考えると太っ腹かな」


ヨルの言う通り、ルナの生活に必要な物は全て魔界王準備した物だった。どのように準備したのかは分からないが、ルナが現世に来た段階で、あらゆる生活必需品は揃っていた。

こちらもどのようにしているのか分からないが、定期的にお金も支援されている。そこまで手厚い支援をするなんて、よほど大天使の娘を殺してほしいのか。
 

「……ところで、ヨルは何しに現世に来たんだよ」


ルナはずっと気になっていたことを尋ねた。


「何しにって……そんなの決まってるじゃん」


ヨルは意地悪そうな笑顔を浮かべて言った。


「監視だよ。根性無しのルナ兄が、きちんと大天使の娘を殺すようにね」


「う……」

 
痛いところを突かれて、ルナは顔をしかめる。


「大体、1年間現世に居たのに何の進展もないなんて職務怠慢もいいところだよ」


「だって見つからないし……殺すなんて物騒なことしたくないし……」


「はぁ……これだからルナ兄は……」


ヨルはやれやれとと首を横に振った。


「こんなことになったのだって、ルナ兄が悪魔の仕事をきちんとしなかったせいでしょ?」

 
「だって人を不幸にするなんて、僕にはとても……」


ごにょごにょと言い訳をするルナに、ヨルは再度溜息をついた。


「悪魔が人に不幸をもたらす理由、忘れちゃった?」


ルナは首を横に振って言った。


「悪魔が人に不幸をもたらす理由は、人を成長させるため……」


「分かってるじゃん」


「……でも、1年間現世で生活して思ったんだ。やっぱり僕、人間を不幸にしたくない……」


頑なな様子を見て、ヨルは苦笑いして言った。


「ルナ兄、悪魔なんて向いてないね」


するとヨルはルナのベッドに寝そべって言った。


「旅の疲れが貯まってるから、オレもう寝るね」


「ヨル……」


「……色んな物支給してもらってるんだから、悪魔としての自分の立場、考えなよ」


それだけ言うと、ヨルは寝息を立て始めた。


「悪魔としての自分の立場……」


ルナはその場に立ち尽くすしかなかった。





< 21 / 120 >

この作品をシェア

pagetop