悪魔の僕は天使の君に恋をする
秋も深まってきて、いよいよ文化祭の季節だ。

ルナ達のクラスは白雪姫の劇をやることになっている。今日のHRは誰が何をやるかの役割分担だ。


「はい、じゃあ白雪姫の役から。やりたい人、居る?」


委員長が尋ねるが、誰も手を挙げない。主役だから緊張するのだろう。


「雨宮さんやれば?」


突然、クラスの目立つ女子が言い出した。


「え、いや、私は別に……」


「私もいいと思いまーす」


「きゃはは!ほら、やりなよ」


言ってることは前向きだが、彼女達の目は全く笑っていなかった。


「何だか、嫌な感じですわ……」


菫が小声で呟いた。


(確かに……でも、どうして雨宮さんを……?)


「雨宮さん、どうですか?」


「えっと、私は……」


百合は困り果てて俯いた。それを見て女子達はニヤニヤと笑っていた。

その少しおかしな雰囲気を壊したのは景太だった。


「俺がやる」


「え、花里君が……?」


戸惑う委員長に景太は自信満々に言った。


「おう。百合にできるなら俺にもできる」


そうドヤ顔で言う景太に、クラス中が笑いに包まれた。


「お前台詞覚えられるのかよ!」


「まぁ、面白いし良いんじゃないか?」


「マジ!?うち王子やりたい……」


「……じゃあ白雪姫は花里君で」


書記が笑いを堪えながら黒板に花里景太の名前を書く。


「それじゃあ次、王子様を……」


「委員長、俺が指名して良いか?」


「え、花里君がですか……?」


「ああ。俺が姫だし」


「まぁ、別に良いですけど……」


すると、景太は真っ直ぐにルナを見つめた。

……嫌な予感がする。


「ルナ、お前が俺の王子だ」


「何で僕!?」


ルナは恥ずかしくてやりたくない気持ちでいっぱいだった。悪魔が王子様だなんて。

しかし景太は構わず続ける。


「俺ら親友だし、大丈夫かなって……」


「何が!?」


「頼むよ、俺の王子になってくれよ」


ルナは、そう頼み込む景太に根負けして頷いた。


「……やります」


すると教室中から拍手が巻き起こった。


「いいぞー黒崎!」


「お前体育祭の時から最高だな!」


「花里君が姫で黒崎君が王子か……なんか面白くなりそう!」


周囲の予想外の反応に、ルナは力が抜けてしまった。


「ルナ君の王子様、楽しみですわ!」


傍らの菫も、目をキラキラさせながらルナを見た。


「藤堂さんまで……」


ルナは先のことを考え、思わず溜息をついた。




< 45 / 120 >

この作品をシェア

pagetop