僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

「え、それって……」
「ああ。蓮夜が描いた絵を、額縁に入れて飾ろうと思って」
 紫月さんは早歩きで車のそばに行って、後部座席のドアを開けた。
「飾ってくれるの?」
 嬉しすぎて、嘘だったらどうしようと不安になって、つい聞いてしまった。
「ああ、飾るよ」
「何で」
「すごく良い絵だから。蓮夜は天才だ。本当に才能があると思う。初めて絵を見た時はすごく戸惑ったけど、今改めて見ると、この絵はとても想像で描ける絵じゃない気がするし、俺の両親もすごく似ているし、本当に良い絵だと思う」
 後部座席の背もたれの前に置かれているキャンバスを眺めながら、紫月さんは笑った。
「本当に?」
 あまりにも褒めてくれたから、嘘なのではないかと思ってしまった。
「ああ。蓮夜、これからも絵描き続けろよ。お前なら絶対、画家になれるから」
「なれるのかな」
 四年もブランクがあるのに、なれるのだろうか。
「なるんだよ。まあそのためにはまず、目を瞑らなくても描けるようにならないとだけど」
「うん」
 紫月さんに言われた言葉を頭の中で繰り返す。目を瞑らなくても、か。どうしたら、そうなることができるのだろう。
「絵を描かなくなったのはあのクソ姉が原因だから、多分クソ姉が、蓮夜が画家になるのを応援してくれるようになったら、震えることもなくなると思うんだけどな」
「そんな風にする方法なんて、あるのかな」
「んー、俺の時みたいに、絵を通して蓮夜の気持ちを伝えてみたら良いんじゃないか?」
「確かに!」
 英輔は勢いよく紫月さんに賛同した。
「そうと決まれば、早速アイディアを出さないと」
「……アイディアならある」
「へえ、どんなアイディアだ?」
 紫月さんはとても機嫌が良さそうな顔をして、首を傾げた。
「姉ちゃんがダンスをしている絵を描こうと思う」
 暴力を振るってくる姉ちゃんは怖くて描く気になれないけど、ダンスをしている絵なら描ける気がした。
「良いなぁそれ。完成したらクソ姉にだけじゃなくて、俺にも見せろよ?」
 俺は勢いよく紫月さんの言葉に頷いた。
「うん! 英輔、また絵、手伝ってくれる?」
「もちろん」
「え? 英輔、お前手伝ってたのか?」
「はい、目を瞑ったら色をちゃんと塗れないから、蓮夜の代わりに俺が色を塗ったんですよ」
「へえ。綺麗に塗れてるな」
 俺の絵に沿ってムラなく、丁寧に塗られているのを見て、紫月さんは感心するかのように言った。
「頑張ったんですよ。俺も義勇さんのこと、元気にしたかったから」
「ありがとな」
「はい!」
 紫月さんに褒められると、英輔は頬を赤らめて、嬉しそうに笑った。
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