おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 若干、目が座っているように見える、本城さん。もしかして、もう酔ってるあもしれない。

「あんたはどうなのよ。笠原」
「んあっ? まぁ、なんだ、ぼちぼちだよ」

 目の前の干物を箸で崩しながら、本城さんの言葉を流すあたり、なんか、ありそうですね。思わず、チロリと目を向ける。

「初音さん、こっち戻ってくる気ないの?」

 ほほー。本城さん、グッジョブ! そうか、笠原さんの彼女の名前は『初音さん』というのか。心の中でメモをする。大柄な笠原さんの隣に並ぶ、美女を勝手に想像する私。

「ないねぇ。あっちに腰、落ち着けるんじゃねーか。」
「そんじゃ、あんた、どうすんの? あっち行くの?」

 あっちっていうのが、どこなのかは気になるけど、そこは二人の会話の邪魔をしてはいけない。耳をダンボにしながら、二人のやり取りに集中する。

「いや、今は無理。まだ、学ぶことが多すぎるし。こんな状態では、会いにも行けない」

 美味しそうに解した身を頬張りながら、淡々と話す笠原さん。
 いいな、いいなぁ。恋バナ。自分で話すより人の話を聞くのが楽しすぎる。

「で、神崎さんは、どうなのよ」

 ニヤニヤ、ワクワクしながら二人の話を聞いてたのに、本城さんのその一言で、硬直してしまう私。

「ここ最近、首にしてるそれ、プレゼントかなんか?」

 本城さんが、完全にイッてるモードになってる。こ、怖いですっ!

「おぉ? なんかつけてたのか? 気づかなかったよ」

 笠原さんのとぼけた声に、強張ってた顔が、ゆるりと笑みに変わる。いいんです。気づかなくて。笠原さんの、その鈍感さに助けられてますから。
 そもそも、本城さんも笠原さんも、普段の職場では、プライベートなことはほとんど話さない。こういうふうに飲みに行ったりしない限り。だから、話す機会もないし、話す必要もないから、気が楽でもあった。

「あ、兄に、もらいましたっ!」

 か、彼氏のはずな遼ちゃんだけど、最近は、彼氏感がないし。きっと私なんかと付き合ってるなんてばれたらまずいだろうし。ていうか。私たち、本当につきあってるの?
 再び、ブラックな弱虫な私が蠢きだしていた。

「へー。神崎って兄ちゃんいるんだ」
「あ、はい。一回り上なんですけど。」
「センスいいわね。お兄さん。彼女いるの?」
「いやぁ、大阪に転勤になってからは、よくわかりません。」
「あ、じゃあ、独身なのね。せっかくだから、私、彼女に立候補しちゃおうかしら。」

 ダメですよ。坂本さんがいるじゃないですかっ! と内心叫びそうになる。
 だけど、ちょっとだけ、本城さんを義姉だったらと、想像したのは、内緒だ。
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