おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 翌日の講義はまったく耳に入ってこなかった。ランチのこと考えたら、緊張しちゃって、先生の話に集中できなかったんだもの。
 お店に着いてみると、ちょうどランチタイムのピークが過ぎたのか、空席が目立つ。
 きょろきょろと店内を見渡していると、マナーモードのスマホが揺れた。

『奥の席にいるよ』

 遼ちゃんからのメッセージ。
 見上げると、奥のほうで片手をあげて、おいでおいでしてる遼ちゃんを発見。サングラスしかしてない。パスタが美味しいってクチコミで見てたけど、店内は女性客ばっかり。こんなところで、私なんかとランチして大丈夫? と思ったけど、私じゃ、逆に何とも思われないか、と苦笑いが浮かぶ。

「遅れてゴメン」
「いいよ、僕もついさっき来たところだから」

 サングラスをはずし、台本らしきものを鞄にしまいながら、にっこり笑った。
 ううう、ダメだよ、そういう王子様スマイル。

「ここ、パスタも美味しいんだけど、僕、ここのスイーツが好きでさ。」

 キラキラした目でメニューをめくりながら、どれがおすすめか説明してくれた。こんなところで、美味しいものが大好きな昔の遼ちゃんを発見。思わず、笑みがこぼれる。

「ん? 何? 僕、なんか変?」

 訝し気に私を見る。

「いやぁ、なんか、懐かしい遼ちゃんを思い出させてもらったんで」
「僕、基本、変わってないと思うけど。外見以外は。」
「そうだね。ほんと、王子様になっちゃったねぇ」

 しみじみ言うと。

「ふふふ。がんばったもの。誰かさんが、王子様に迎えに来てもらうんだ! っていうから」

 ……はい?

「まぁ、迎えに行くのは、予定よりはちょっと早かったけど。」

 ……はい?

「……わかってる?」

 完全に固まりました。御冗談でしょ、王子様?

「あ、これ、おすすめね。デザートは……これ。」

 遼ちゃんがどんどんメニューを決めていくのに、呆然としてる私。何いってるの、この人。

「おーい。美輪さーん。生きてる?」

 はっ、として気が付くと目の前には、クリームたっぷりのカルボナーラ。

「好きだったでしょ? カルボナーラ」
「……う、うん」

 相変わらず呆然としてたけど、食い意地がまさって、自然と口に運んでしまってた。うん、美味しい。
 それからは、黙々とパスタと格闘。美味しくてフォークが止まらない。美味しいものを食べると、ついつい、笑顔になってくる。
 そんな私を、眩しげに見ている遼ちゃんに気付く。

「……美味しいよ?」
「うん。知ってる。」

 ふいに、遼ちゃんが手を伸ばしてきた。
 なに? と思って身をひこうとしたけど、遼ちゃんのほうが早かった。
 口元についたクリームを親指でなぞり、クリームをなめた。

「ふふ。やっぱり、美輪さんの口元、美味しい」

 ……妖艶王子め。

「か、揶揄わないでよ。」

 顔をひきつりながら、身をひくと、ニヤっと笑いながら、じっと口元を見る遼ちゃん。

「うううううう……あんまり意地悪言うと、一馬に言いつけるよ」
「うわ、それは勘弁」

 普段の遼ちゃんが戻ってきた。こういうのを見ると、やっぱり役者さんなんだな、と思う。

「でも……『迎えにきた』のは本気」

 目を大きく見開いて遼ちゃんを見た。これは、演技?
 クスっと笑った遼ちゃん。

「ようやく会えたんだもの。時間はいくらでもあるし。美輪さん、僕のこと、考えて」

 私、夢見てるの? 揶揄われてる? 全然わかんない。
 呆然とする私を、遼ちゃんは相変わらず眩しげに見ている。

「覚悟してね」

 ニヤリと笑うその顔は、意地悪にみえて、それでもやっぱり王子様なんだな、ってつくづく思った。
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