おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 私たちはアリシアさんの車に乗り込むと、空港を離れた。
 その間、二人は楽し気に英語で話し続けている。
 彼らを見ていると、段々と、筋違いなヤキモチを焼いてしまいそうなので、窓の外の風景を見る。すでに、ニューヨークの街並みの中にまぎれ、映画の中に入り込んだような錯覚に陥る。
 タイムズスクエア近くのホテルを、ロスの友人のパートナーが予約してくれていた。さすが旅行代理店勤務。ホテルの名前を言っただけで、アリシアさんでもすぐにわかったのか、すんなりとホテルの傍まで連れて行ってくれた。

「へぇ、いいとこ予約したじゃん」
「友達のおかげだけどね」

 キャリーバックをゴロゴロ言わせながら歩いていると、歩幅の差で、先にチェックインの手続きをしている遼ちゃん。当たり前だけど英語ペラペラで、カッコイイって、素直に思う。

『アリシア、明日は?』
『悪いけど、予定あるから』
『わかった。今日はありがとう』
「あ、さんきゅう~!」

 自分だけ、しっかり日本語英語で、少しだけ恥ずかしい。
 アリシアはニヤニヤしながら手を振って去っていった。

 私たちは、エレベーターに乗り込んだ。
 同乗者が少しずつ降りて、私たちだけになった。

「美輪、キスしていい?」

 耳元で囁く彼の声は、いやになるくらいセクシーで、断りをいれながらも、私の答えは必要がなかった。
 エレベーターを降りると、誰もいない通路を、言葉もなく歩く。
 カードキーを差し込んで、部屋に入る。
 重いカーテンは閉まったままで、部屋の中の灯りはフットライトだけ。

 ――ようやく、二人だけになれた。

 キャリーバックを置くと、遼ちゃんの身体に抱きついた。

「やっと、本当にやっと、会えたっ」
「来てくれて、ありがとう」

 ただひたすら、彼の存在を確かめたくて、ギュッと抱きしめて、彼の胸に顔をうずめた。

「……寂しかったの」
「うん」
「ごめんね、来ちゃって」
「美輪」

 見上げた遼ちゃんの顔は、すごく優しく微笑んでいた。
 お互いしか見えない私たちの周りから、街の喧騒が消えた。



 食事をする時間すらも惜しんで、お互いの身体を求め合った。
 次に会えるのがいつなのかわからないから。
 ただひたすら、今、目の前のものを自分の中に獲り込んでしまうように。
 刻々と時間は過ぎていくけれど、私たちの中の時間は止まったまま。

 ――今だけは同じ時間の中に一緒に生きてることを実感しながら、ただひたすらに互いを求め合った。





 気が付けば、窓の外が白んできて、二十四時間起きている街の音が戻ってきた。

 キュルルルルル

 思わず出た身体が食べ物を求める音が、私たちを現実に戻す。

「お腹すいた」
「だな」

 顔を見合わせて、笑いだした私たち。

 ホテルの部屋を出る。
 二人きりで、人の目を気にせずに、一緒に街の中を歩いて、自然に話をしたのは、いつぶりだろう。
 いつもいつも、私の部屋にきて、その閉じられた世界だけで、二人の世界は成り立っていた。でも、今、青い空の下、とっても寒いけど、隣に遼ちゃんがいて、腕を組んで歩いてる。
 そんな普通のことが、すごく嬉しくて、少しだけ目尻に涙がにじんだ。

 ――そんな楽しい時間もすぐに過ぎていく。
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