婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
メイナードは二十歳で公爵家の当主になり、ひたすら魔獣の盗伐に明け暮れた。

そして気がついた。自分が格段に強くなっていることに。

隣国との闘いで実戦経験を積んだからだけではない。

魔力自体が上がっていた。しかもそれまで使えなかった闇魔法までも自在に扱えるようになったのだ。
力を使うほど、紋様が広がっていく気がしたし、メイナードの凄まじい破壊の力を見た者が怯えさらに悪評が流れたが、どうでもよかった。

このまま朽ち果てるならそれでもいいとすら考えていた――。



目が覚めると、辺りはすっかり薄暗くなっていた。

酷い喉の渇きを感じた。

枕元に置いてある水差しからコップになみなみと水を注ぎ、一気に飲み干す。それを三回くり返しようやく渇きが癒される。

昔の夢を見た後はいつもこうだ。

当時感じた苦痛が蘇る。決して忘れてはならないと思う心が見せる夢なのだろうか。

孤独で頑な人間。

そんな自分の下に嫁いできたアレクシアは、なんて不幸なのだろう。

うまく離縁するのと、自分が死ぬのとどちらが先かは分からないが、彼女がなるべく傷つかないで欲しいと思う。

メイナードを裏切り拒絶した者たちと、彼女に違いなんてないかもしれない。

けれど、姿絵を見たときから、彼女を守ってやりたいと思うのだ。

不本意ながら嫁いで来たのだとしても、彼女が自分の妻だからなのか。

それは理屈では説明できない、感情の動きだった。
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