下弦の月
「接待、大丈夫だったか?」





「はい…大丈夫でしたよ。」





「嘘つけ、身体とか触られたんじゃねぇのか?」





えっ?





どうして…それを部長が知ってるの?







「触られたんだな?」






たぶん、私は心の中の声が顔に出ていたみたい。







厳しくても、怖くて鬼みたいでも…



社員一人一人をちゃんと見ていて。



頼れば、フォローしてくれてる部長だから。






院長が、セクハラ親父だと分かれば。




俺が行く。と言い兼ねないって思ったから言わなかったのに。








「佐藤に聞いたんだよ。セクハラ親父だってな、最初は佐藤が担当だったから佐藤が行くはずだったらしいじゃないか…。だけど、水上が代わりに行ったんだってな?」







もう、どうして…部長に言うのよ!




栞ちゃんを少しだけ恨んでいた。








「はい…その通りです…」





「全く…水上は、人が良すぎる。それは営業として大切だがな…損もするんだぞ。今度から、その接待は俺が行く。わかったか?」






「えっ?でも…それでは…担当は私になったので、私も行かなきゃ…」





「だったら…俺が着いてく。」





でも……





「部長にも、仕事が…」





「うるせぇ。最初に言ったよな?こちらのミスで揉めたなら謝罪は必要だが、そうではないなら切れって…忘れたか?院長の件も同じだ。俺が着いて行って、文句を言われるなら切ればいい。」






わかりました、次はお願いします。としか言えなかった。





「もっと頼れよ。水上は、何でも一人で解決しようと…し過ぎだ。」






はい。





頷くと、頭を撫でられて。




その感覚が気持ちよくて、車の振動も心地好くて。





つい、無意識に欠伸が出てしまっていた。






「寝ていいぞ?まだ、着かねぇしな。」






その言葉を聞いて、安心したのか瞼は落ちていた。
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