下弦の月
ずっと………俺が探してた女が、




やっと現れても、俺は思い出したわけじゃない。





だけどな……





自分でも気付かない間に、水上が俺の頭と心に……



浸透し始めているのは間違いない。







佐藤だけじゃない、他の連中も水上の後輩達にも、




頼られていて…慕われていて。





自分の仕事をこなしながら、いちいち対象して、




俺に、伝える事は全て相談ではなく報告。





接待のことだって、同じだ。




セクハラ親父だってわかっていながら、




佐藤のために自分が行って、なぜ他を頼らない。




担当が女なのを良いことに、利用してるだけじゃねぇか。






誰にも、頼らずに踏ん張ろうとする。




大丈夫か?と聞いても、




大丈夫。と答えて無理して笑う。





そんな水上は、




前世の俺と同じだから、放って置けないのかもしれねぇけど。










水上がこうやって、徐々に浸透し始めてるってわかった今となっては……




前世の女が、水上であろうとなかろうと……どうでもいい。




だから、さっきのは聞かなかったことにしていいか?




まだ、俺を土方歳三として見てる水上を、




思い出せないからじゃないんだ。




安藤柊輔として好きになって欲しい。





生まれ変わったら、全く別の人間で。




考え方も性格も違うんだよ。




だから、俺自身をもっと見てくれよ?
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