下弦の月
容易い事じゃない。







「簡単そうに言いますけど…容易い事じゃないんですよ。部長はたくさん仕事を抱えてるのに…」






「俺は…大丈夫だ。心配するな、俺を信じろ。」






私が、心配して言った言葉を私を安心させるような声音で言われて、






「わかりました。ですが…無理はしないで、私達でも出来る事は頼って下さいね?」





そうとしか、返せなかったけれど、




柊輔さんは、ああ。と頷いてくれた。




栞ちゃんも納得したようで、一足先にデスクに戻って行った。





小声で、





「気を使ったのか…あいつなりに。」





そう、呟いたから。





「あの子は、そういう子ですよ。」





って返せば、微笑んで。




封筒を私に手渡して、私が何かわからずに受け取ると。





「見ればわかる。それと、珈琲淹れて来てくれ。」





と、パソコンに視線を移した。





何となく、給湯室で見ろって事だろうと思い。




給湯室で、封筒を見ると。





『しばらく忙しくなりそうだから、会社以外で会える時間を作れない。だから、俺の家で会いたくなったら待っていてくれ。』





と、書かれた紙と一緒に鍵が入っていた。




合鍵だと、




忙しくなるのは、さっきの事を意味してるのだと。




すぐに認識して珈琲を淹れていると。




上着のポケットの社用の携帯が震えて、





『早く番号教えろ。書き忘れたが、俺の家の暗証番号は俺の誕生日だ。』





柊輔さんからのショートメールが届いていた。




まだ、番号を教えてなかった事に今更ながら気付いて……




私の番号とアドレスを送って、淹れ終わった珈琲を持って。




柊輔さんのデスクに向かって、珈琲を置くと。





『おせぇよ、サンキュ。』





優しい微笑みをくれたけれど、それはたぶん番号の事だと思う。





「すいません…」





ああ。とだけ答えたのを聞いて、デスクに戻って。




上着のポケットに入れた封筒を鞄に締まった。
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