下弦の月
「行かないで…平助くん!」






「ごめんな、月香。俺は、伊東さんには恩があるんだ。伊東さんが居なかったら…俺は、新撰組にすら入れなかった。伊東さんが、俺の剣術を磨いてくれたからなんだ。」








「でも……」







言葉に詰まり涙を流す私に、平助くんは優しく手を差し伸べて。







「泣くなって、笑ってくれよ。月香に涙は似合わない。恩があるってのも…本当だけど…今の時代に生きてるからには、色んな視野で世の中を見たいんだ。必ず…またいつか会えるさ。」







拭いながら、言ってくれた平助くんだけど。




どこか、寂しそうで。






「本当にいいの?」






そう聞くと、大きく頷いて。






「もう…決めたんだ。いつかまた、会おうな。」







いつもの平助くんのやんちゃな笑顔で、





手を振って、屯所を出て行ってしまった。







もう、会えないんだよ…平助くん。





溢れ出す涙を、堪えて。





土方さんの部屋に駆け込んだ。





いつかの土方さんの言葉を思い出して。
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