下弦の月
落ち着いた私は、八重の事を聞いた。






「八重は…戦が落ち着くまで、松本先生の所に居ると書いてあった。心配ねぇよ。」







「はい、安心しました…」









それから、程無くして……土方さんは会津の天寧寺に、







「俺が最後に…近藤さんにしてやれる事だ。ちゃんと、弔ってやらねぇとな…」






そう言って…立派な近藤さんのお墓を建てた。




三ヶ月の療養生活で、すっかり足も治った土方さんだったが…




会津の戦は激化しており、




城下に残って、なおも闘っていた斎藤さんに。






「俺達は…仙台に向かう、斎藤はどうする?」






そう、聞くと。






「俺は…ここに残ります。会津藩には、たくさんの御恩があります。今こそ、負け戦になろうとも最後まで忠誠を尽くすべきだからです。」






真っ直ぐに土方さんの瞳を見つめて、




伝えられた言葉は……既に決心している強い意志が見えた。





その、意志を土方さんも見抜いたようで。





「わかった。ただし…生き急ぐなよ。」






と、斎藤さんの肩を叩いて背中を向けた。






「斎藤さん…必ず、八重の所へ行ってあげて下さいね?」






斎藤さんは、会津の降伏で生きるはずだから。




そう伝えると、小さく頷いて。





「土方さんを…頼む。」





一言だけ、土方さんの背中を見つめて……




そう、告げた。






きっと、斎藤さんはこの背中に忠誠を誓ってたんだ。





誰よりも、土方さんの腕となり足となり。







「はい、斎藤さんのように支えられませんが…出来る限り。」






「ああ…早く行け!」






背中を押されて、私は土方さんと仙台に向かった。







この仙台の地で、旧幕府海軍を率いる榎本武陽と合流し。





奥羽越列藩同盟の軍義に参加したが、




すぐに同盟軍は崩壊し、次々に新政府軍に降伏したため。






土方さんは…榎本さんと新撰組の生き残り隊士、




桑名藩士と共に蝦夷に向かった。
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