どうも、薬作りしか取り柄のない幼女です

「【紋章魔術】起動」

 魔術陣を展開する。
[保管]の魔術紋の中から空の小瓶をひとつ取り出す。
 しかし、ふと依頼の内容——聖獣治療薬と同じ色と言われて困り果てる。
 聖獣治療薬ねぇ、最上級ポーションの失敗作をそう言って火聖獣様に与えていたのであって、私はそんなものを作った記憶がないのだ。
 つまり、聖獣治療薬なんてものはぶっちゃけそんなもの存在しない。
 うーん、と悩んだあと、[レシピ]の魔術紋を展開して失敗作の欄から[マナの花]を用いたもの一覧を選別する。
 共通素材[マナの花]+[水]+[デュアナの花]。
 ポーションの材料に、[マナの花]を足すともれなく毒になる。
 これまで使った[マナの花]の部位は花弁、茎、葉、そして私が若返ってしまった“根”。
 人間には毒である[マナの花]だが、聖獣様にはそれが良薬となる。
 つまり、聖獣様の治療薬には[マナの花]の毒素をどうこうする必要がない。
 素材そのままを活かせばよいということだ。
 依頼品である魅了無効薬は薬に[魔術封じ]を付与するだけなので、ぶっちゃけスティリア王女に飲ませるものは下級ポーションでも構わない。
 見た目の問題だ。
 では作るものは決まっている。
 空の小瓶を四本追加。
 魔術陣を拡げ、[保管]から[マナの花]と[水]と[デュアナの花]と[リリスの花]、そして先程得た[ドラゴンの鱗]を取り出した。
 この[ドラゴンの鱗]、薬に使用する場合粉末状にする。
 効果は素となるドラゴンの属性にもよるが、基本的に滋養強壮と耐毒、魔術耐性アップ。
 時折、小型のドラゴンのものが素材として入手できる。
 こんな大きなものは私も初めて見た。
 私の固有魔術【叡智】による[素材解析]をすると、やはりこれは耐毒性が非常に高い。
 魔獣融合でポイズンスネークが素体の一種となっているからだろう。
 この[ドラゴンの鱗]一枚を[粉末化]の魔術紋に放り込み、粉末にする。
 そこへ[乾燥]にした解毒の花、[リリスの花]と[水]を投入して混ぜて——出来上がったのは最上級解毒薬。
 さあ、下準備は終わり!

「[マナの花]の花弁と茎、葉を水に溶かして抽出。[デュアナの花]と[水]、[マナの花の抽出水]を、混ぜ合わせる」

 私の【紋章魔術】で作られる薬は少量の素材で倍の量、最大級の効果を引き出す。
 そういう“魔術”だ。
 作られた毒抜きしていないその半透明な淡い紅紫色の液体を、空の小瓶四本に注いで——完成!

「できました! これが私の本気で作った『聖獣治療薬』です!」

 失敗作ではない。
 私が、これこそ聖獣治療薬である、と思って作ったものだ。
 だから【叡智】の[薬品解析]でもしっかり
[聖獣治療薬]品質:良
 と出ている。
 このレシピをベースに、先程作った解毒薬を聖獣治療薬に、混ぜる!
 色合いは混ぜ合わせる間に淡い紫紅色に指定、着色。

「……っ」

 できた。
 できてしまった、ついに。
 私が長年追い求めていた——最上級ポーション。品質は良。
 ……十分だ。
 なんだ、こんなに簡単にできてしまうなんて。
 今まで試行錯誤していたのが、ばかみたい。
 でも、これまでの失敗作がなければ聖獣治療薬はできなかったし、それをベースにして最上級ポーションを作るなんて、思いつかなかった。
 なにより最上級解毒薬には[ドラゴンの鱗]が必要。
 それも今までに試した[ドラゴンの鱗]では、ここまでの効果は出せなかっただろう。
 嬉しい。
 やった。
 やり遂げた。
 ついにできたんだ。
 私は作った。
 この世であらゆるものを治癒する奇跡の薬——最上級ポーションを。
 涙が出た。
 でもそれを拭う。
 だってこれで終わりじゃない。
 私は私の夢を叶えた。
 もう十分。

「では、無毒化したこの薬に[魔術封じ]を付与します」
「おお、いよいよ我らの出番だな」
「はい! よろしくお願いします!」
「ところで、俺は[魔術封じ]の魔術は使えないんだけど……なにを手伝えばいいんだい?」
「ルシアスさんにはこの薬に水と土の属性付与をお願いしたいです。[魔術封じ]ではなく」
「? そんなことでいいのかい?」
「はい」

 魔術陣を組み替える。
 薬に魔術を付与する時の[付与]の魔術紋の上に、最高級ポーションを置く。
 私の夢。
 私の生きる目標。
 叶ってしまったから、未練はない。

「火聖獣様、風聖獣様、ルシアスさん、属性付与をお願いします! 付与開始——[魔術封じ]!」

 最上級ポーションは、あらゆる病、怪我を癒す。
 それこそ欠損部位の回復、息が絶えたばかりなら死者蘇生まで可能と言われる。
 残念ながらそれを試す機会は恵まれなかったが、作り方はわかったし[ドラゴンの鱗]はまだあるので、作り直したければ作り直すことが可能。
 だから後腐れなく——土、水、風、火の四属性を得た最上級ポーションを、変質させられる!

「これは!」
「治癒効果を無効化に変質させました。これでありとあらゆる魔術が無効化できます」
「……っ……み、魅了無効と言ったのだが……?」
「魅了無効の魔術は持ってないので、こっちの方が手っ取り早かったので」
「…………」

 ルシアスさんに頭を抱えて天を仰がれてしまった。
 ひどい。
 私依頼されたものを作っただけなのに。

「な、なにがどうなったの?」
「あ、えっと……今私が作ったのは最上級ポーションなんですけど」
「最上級ポーション?」
「最上級ポーション!? あ、あの伝説の!?」

 おお、ルシアスさんは知ってたんですね。
 そうです。
 その伝説の、です。
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