偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
『相手を本気で想えば想うほど、相手の気持ちの変化には敏感になります。些細な出来事や言動のひとつひとつも疑い出せばキリがないと思いませんか? 結婚は信頼関係の上に成り立つものでしょう?』


藍はどれだけ怖かったか。

不安だっただろうか。


諭すような口調から、俺たちを心配する白坂さんの気持ちが伝わる。

わざわざこうやって、友人でもなんでもない元見合い相手に電話をかけてきてくれるくらいだ。


「……白坂さん、すみません。ありがとうございました。目から鱗が落ちた気分です」


『わかっていただけてよかったです。でも今後も私は全面的に斎田さんの味方ですけど』


「そうですね、よろしくお願いします」


スマートフォンを強く握りしめ、感謝を込めて返答する。


『これからどうされるんです?』


「藍に会いに行きます。会って本心と真実を伝えます」


『応援しています』


「本当にありがとうございました」


通話を終えた俺は軽く目を閉じた。


藍、悪かった。


今すぐ会いたい。


会って抱きしめたい。


そして謝りたい。

俺がどれだけお前を想っているのか、聞いてほしい。


どうか、俺をあきらめずに待っていてくれないか。


馬鹿だと罵ってくれて構わないし、殴ってもいい。


藍が抱えた傷の痛みを俺にも味わわせてほしい。


俺にはもう、藍のいない生活は考えられないんだ。


誰よりも愛しいと何度も伝えるから。


――絶対に是枝さんには渡さない。


心は決まっている。

だとすれば、今の俺がとるべき行動はひとつしかない。
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