偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「一週間」


「え?」


「一週間後に返事を聞く。言っておくが俺はお前を逃がすつもりも考えを改める気もまったくないからな」


「なにを……」


そっと長い指が私の頬に触れる。

そのまま横にスライドした指がほつれた髪を耳にかけた。

先ほどまでの強引な言葉とは裏腹に壊れものにでも触れるかのような優しい手つきに、心が落ち着かない。

ドキンドキンと心臓が早鐘を刻む。


「覚悟しろよ? 俺は欲しいものは絶対に手に入れる主義なんだ」


見惚れそうになるくらいの妖艶な眼差しに、一瞬視線を奪われる。


「れ、連絡先だって知らない関係なので無理です!」


悔し紛れに言い返す。

咄嗟のこととはいえ、二十七歳にもなってこんな幼稚な返答しかできない自分が情けない。

そのとき、バッグの中から微かな振動音が伝わった。


「ちょっと、すみません」


眼前の相手にひと言断わりを入れてスマートフォンを取り出すと画面には見知らぬ番号が表示されていた。


いったい誰だろう?


「それが俺の連絡先だ」


「な、なんで私の番号を知ってるんですか」


「さっきスマートフォンを操作しただろ?」


「あの一瞬で? でもそんな素振り全然……」


「お前が素直に連絡先を教えるとは思えなかったからな。ちゃんと登録しろよ?」


悪びれた様子もなく言い放つ姿にイラ立つ。

すっかりこの人のペースに翻弄されている。


「これでお前の言い訳は通用しないな」


明らかに面白がっている口調が腹立たしい。


卑怯だとわかっているのに、どうして言い返せないの?


答えの出ない問いかけだけがいつまでも心の奥底に燻っていた。
< 31 / 208 >

この作品をシェア

pagetop