偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
そのとき、軽くノックの音が響いた。


「栗本様、真木様より急ぎの電話が入っておりますが」


「……アイツ」


不機嫌そうに眉間に皺を寄せる彼の仕草が子どもみたいで思わず笑ってしまう。


「藍?」


「ご、ごめんなさい。なんだか可愛くて」


「可愛いのは藍だろ」


とんでもない台詞を吐きつつ、彼が腕を外す。

そしてそのまま試着室の外へと歩いていく。


「店内で待ってる」


何事もなかったかのように振る舞う櫂人さんに、動揺しきりの私はうなずくしかできない。


「可愛いって……初めて言われた……」


まさか極上の美形である婚約者にそんな賛辞を贈られるなんて。

そしてなによりもそんな甘い言葉を言われるとは思いもしなかった。


“可愛い”


そのひと言がじんわりと心の奥底に響いて、しばらく動けなかった。



ドレスは最後に試着したものに決まった。
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