偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
目の前に置かれた幾つものショッピングバッグを肩にかけた彼が、私と指を絡めて駐車場へ向かう。

中西さんが運んでくれようとするのを櫂人さんが丁重に断ったのだ。

一着の洋服代金を考えるだけでも恐ろしいのに、合計代金はどれほどなのだろう。

とてもじゃないけれど、払いきれそうにない。

正直にその旨を告げると、櫂人さんは再び不機嫌になった。


「婚約者が身に着けるものを、選んでプレゼントするのは当然だろ」


そんな常識はないと、どうすればこの人に伝わるのか。


「お気持ちは嬉しいですが、高価すぎます」


「だったら、代わりに俺が欲しいものを藍にねだっていいか?」


「……それは構いませんが、高価なものは用意できませんよ?」


頭の中に浮かぶのは、自身の預金通帳の残高。

一応社会人になってから少しずつ貯蓄はしてきたけれど、それほど潤沢にあるものではない。


「大丈夫、藍にしか用意できないものだから」


クスリと声を漏らした彼は、それ以上なにを聞いても答えてくれなかった。


「――櫂くん?」


高めの可愛らしい声が背後から突如響いた。


「……(あや)?」


私より一瞬早く振り返った彼が声を発する。

目の前にいたのは華奢で小柄な女性だった。

小鹿のように大きな目を縁どる濃いまつ毛が目を引く。
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