ふたりぼっちの孤城
違う。山吹は将来の為に休むと言っていた。

山吹はわたしだけには嘘をつかない。


「不快だわ。下がりなさい」
「仰せのままに」


麻生は綺麗な礼をして勝ち誇ったように立ち去った。

慣れているのか鍵の音を閉める音はしなかった。

一人ぼっちになった部屋の中でルミを抱き抱えて自分の考えに浸る。

どうしても麻生の言葉が引っかかった。

もしかしたらわたしはずっと山吹の負担になっていたんじゃないかって。

わたしに対して優しいのは忠誠ではなく、ただの同情だったんじゃないかって。

山吹のことだけは信用している。

でもたった一滴の不安がどんどん染み込んでいく。

実際、山吹からの返信が遅くなっている。


(主人をこんなに不安にさせているんじゃないわよ、山吹のバカ)


ルミを抱きしめる腕に力が入る。

山吹の匂いがした。

不安を埋めようにも、余計に本人が恋しくなるから逆効果だ。

でも手放せなかった。


「早く帰ってきてよ・・・」


わたしの声は誰にも届かない。

冷たい空気にただ溶けていった。
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