聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
次女カリナ

 わたしたちは聖女。
 神様に選ばれた清らかな乙女。
 普通の人には起こせないような奇跡が、わたしたちには起こせる。
 特別な存在なのだと、周りの人たちは褒めてくれる。

 だけど、それはわたし一人じゃない。
 わたしには姉と妹が一人ずついる。
 二人も同じ聖女で、わたしと同じことが出来る。
 特別も三人そろえば霞むだろう。
 質の悪いことに比べられもする。
 姉は器用で要領が良くて、何でも十全にこなす。
 皆が想像する聖女として、姉が一番ピッタリ合っている。
 妹はいつも元気で運動神経も良い。
 人懐っこい性格だから、初対面の人とでも簡単に仲良くなれる。
 対してわたしは……

「カリナ様な~ あんまり言いたくないけど、地味というかさぁ~」
「そうか? あーでも、もうちょっとハキハキしゃべってほしいよな」
「人見知りらしいし仕方がないだろ?」

 人見知り、引っ込み思案で特徴が薄い。
 というのが、王国で時折耳にするわたしに対する評価だった。
 まさにその通りで、返す言葉もない。
 姉のような器用さも、妹のような明るさもない。
 勉学だって、実を言うとあまり得意なほうではなかった。
 二人のような個性は、わたしにはない。
 だから、たぶん……二人がいれば、わたしは必要ない。

 こんなわたしに、価値なんてあるのかな?

「そんなことは知らない。少なくとも、僕が見つけたのは君で、今ここで必要なのは君だ。余計なことを考えている暇があったら手を動かせ」

 そんな風に言ってくれる人がいた。
 言葉遣いとか、扱いもぞんざいだけど、わたしを必要だと言ってくれた。
 すごくうれしかった。
 こんなわたしにも価値はあるのだと、教えてくれたから。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ぅ……」

 朝はちょっぴり苦手だ。
 特に夢を見た後の目覚めはとびきり悪い。
 たいていが良くない夢を見るから、憂鬱な気分で目覚める。
 だけど、最近は少しだけマシになった。
 どれだけ嫌な夢でも、最後に必ず現れてくれる人がいるから。
 
「準備しなくちゃ……」

 わたしはベッドから起きて、服を着替えて準備をした。
 一階に降りると、もう姉のアイラが朝食を用意している。

「おはよう」
「あっ、おはようカリナ。ちょっと待っててね? 今からサーシャを起こしに行ってくるから」
「わたしが行こうか?」
「ううん、大丈夫よ。あの子って結構大きな声じゃないと起きないでしょ?」
「そうだね」

 わたしは大きな声を出すのが苦手だ。
 アイラもそれを知っているから、寝坊助のサーシャちゃんを起こすのも彼女の日課になっている。
 二階に上がったアイラが、大きな声で起こしている。
 下まで響く声だ。
 わたしにはあんなに大きな声は出せない。

「おっはよ~」
「おはよう」

 サーシャちゃんが起きてきた。
 三人が揃ったところで、一緒に朝食を食べる。
 最初に食べ終わるのはいつもサーシャちゃんだ。

「ごちそうさま! じゃあボクは先に行くね~」
「気を付けるのよ」
「うん! 行ってきまーす!」

 サーシャちゃんは元気に家を出て行った。
 向かった先は冒険者ギルドという場所らしい。
 冒険者になってから、サーシャちゃんは前よりもっと活き活きとしている。

「何だかいつもより楽しそうね」
「そうだね」
「カリナは? 司書のお仕事は楽しい?」
「まぁそれなりに」
「そう、なら良かったわ」

 淡々とした話を済ませて、わたしたちも食事を終わらせる。
 出発する時間は同じだけど、方向は逆だ。
 アイラは王城近くの聖堂へ、わたしは海側にあるグレンベル大図書館に向う。

「じゃあまたね」
「うん」

 グレンベル大図書館は、この街で一番大きな図書館だ。
 わたしは今、その図書館で司書として働いている。
 と、二人は思っているだろう。
 別に嘘じゃないし、わたし自身もそのつもりだ。
 だけど、一つだけ二人には内緒にしていることがある。

「おはようございます。ミーア館長」
「おはよう、カリナちゃん」

 図書館についたわたしは更衣室に向った。
 そこで館長のミーアさんと出くわし、挨拶をした。
 ミーアさんはとても優しい人で、よそ者のわたしにも親切にしてくれる。
 他の従業員からは、お母さんみたいな人と言われていた。
 まさにその通りだ。

「午前中は受付をお願いね」
「はい」
「午後はいつも通りだけど、それで大丈夫かしら?」
「はい」
「私が言うのもなんだけど、嫌だったら辞めても良いのよ?」
「大丈夫、です。好きでやっているので」
「そう。もしも変なことされたらすぐに言いなさいね? 私がきつーく言ってあげるから」
「ありがとうございます」

 この図書館には秘密がある。
 利用者はもちろん、従業員の一部も知らない。
 本棚が並ぶ大きなフロア。
 その奥には隠された部屋がある。
 何の変哲もない見た目からは、扉なんて見えてこない。
 だけど、合言葉を口にすると――

「アペレート」

 本棚が左右に動きだし、扉が現れる。
 この扉は、特別な指輪を持っていないと見えない。
 中へ入ると、地下へ続く階段があった。
 真っすぐに下っていくと、一つの部屋に突き当たる。
 そこには――

「失礼します……ナベリス博士」
「ん? あぁ、ようやく来たのか」

 とある研究者が住んでいる。
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