マリオネット★クライシス

わたしは今夜、抱かれる。
馬淵さんに……ジェイじゃない人に。

キスも、されるのかな。

塗り直そうとリップで唇を縁取っていた手が、いつの間にか止まっていた。

顔とか身体とか、あちこち触られて。
それで、それから……

ベッドの上で自分にのしかかってくる脂肪の塊みたいなその人を想像するなり、肌がブツブツ粟立った。気持ち悪すぎて。

嫌……嫌だ、行きたくない。
行きたくない!

両手でリップを握り締め、吐きそうなくらいの嫌悪感を無理やり抑える。

どうしよう。
大丈夫だって思ってたのに。
みんなやってることだって、ただのセックスだって……

平気だと思い込もうとすればするほど、真夏のくせに全身が震え出してしまう。

顔を上げた先、鏡に映っているのは、怯えた目をした女の子――


……っダメだ、ダメダメ!
しっかりしなくちゃ。
これはお仕事。ドタキャンなんてとんでもない。

それに、二度とない大きなチャンスだよ?
このままだとずっと事務所のお荷物で、仕事だってなくなって……だから、だから……



どれくらいそうしていただろう。
誰も来ないのを幸い、鏡の中の自分を見つめていたわたしは――やっと、心を決めた。


ジェイとは、セックスしない。

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