マリオネット★クライシス

「車を一台追ってほしい。六本木のABCテレビを出た後、行方がわからなくなってる」

通話を一旦切ってから、ライアンはすぐにジェイから聞きとった車のナンバーと特徴とを伝え、探すように指示を出した。
了解、とキーボードをたたき始める2人の背後で、貴志が不満げに腕を組む。

「なんで手を貸してやるんだよ。放っときゃいいだろ。もう俺たちの仕事は終わったんだし、いくらお前が総帥のお気に入りでも、これ以上動けば後で絶対何か言われるぞ?」

「大丈夫、責任は僕が取るから」
軽い調子で、しかしきっぱりと言ってから、ふとどこか遠くを見るようにエメラルドの瞳を瞬かせた。

「ジェイはさ……昔から一匹狼だったんだ。妙に大人になり急いでる、っていうか、子どもらしいところがなくてさ。だから、なんだかね……嬉しいんだよ。初めてだから、彼が頼ってくれるなんて」

協力してやりたいじゃないか、と穏やかに口元を綻ばせるライアンを見ていた貴志が、「おいおい、待てよ」と顔をひきつらせた。

「ずっと、妙にあいつの肩持つなぁと思ってたんだ。お前ら、もしかして知り合いだったのかっ!?」
「知り合い……そうだね、彼にブドーを教えたのは僕だし」

「ブドー? 葡萄? ……ぶ、ど……武道っ!?」
ガタガタっと精密機器になだれ込みそうになって、慌てて態勢を整える。

「ちょっと待て! じゃあ師弟関係ってことじゃねえか!」
「うーん、師弟っていうのはちょっと違うかなぁ。ケンカもするし。むしろ、兄弟って感じ?」
「もっと仲良しかよ! 聞いてねえぞ、そんな仲だなんて!」
「うん、言ってないからね。聞かれなかったし?」

にっこり、と背景に書き込みたい勢いで微笑まれ、貴志は呻きながら茶髪をガシガシかき混ぜた。

「おい、まさかこのことキングは――」
「うん、知ってるよ。総帥もね。つまり僕がジェイに甘くなるのは、“織り込み済み”ってやつだよ。だから言ってるだろ、大丈夫だって」
「んだよそれっ知らねえよ! ったく、アホらし」

ぶつぶつぼやきながら荷台のドアを押し開けて出て行く背中へ、「雨降ってるよー」とライアンはつぶやいた。

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