マリオネット★クライシス


――今夜馬淵(まぶち)さんとホテルに行けって、猪熊さん(マネージャー)に言われたの。


ほんの30分ほど前。
駆け込んだ恋人の住むタワーマンションで、初舞台よりも緊張しながら打ち明けた瞬間を思い出す。

助けてほしいとか一緒に戦ってほしいとか、考えていたわけじゃない。
翔也たちはそれを期待して、自分を送り出したようだが。

無駄に芸歴(キャリア)だけは長いのだ。芸能界(ギョーカイ)で、いわゆる枕営業というものがごく普通に行われていることくらい、承知している。
“落ち目”の自分が、それを断ることなどできないことも。

ならばせめて、処女(バージン)だけは恋人である彼にあげたかった。
誰に抱かれようと、この気持ちが変わらないものである証として。

そう伝えようとしたのに……


――あ、そう。てか、まだ寝てなかったんだ?


パーティーの名残らしき残骸が散らかった豪華なリビングルーム。
ソファにだらしなく足を投げ出して座ったバスローブ姿の男の言葉が、耳の奥にまだ乾いた泥のようにこびりついている。


――え、どういう意味?

一瞬、彼が寝ぼけているのかと思った。
昨夜は遅くまで楽しんでいたようだから……

――どうって……まんまだけど。まだ食われてなかったんだなって。

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