マリオネット★クライシス

それは、唐突だった。
全身がバケツの水を浴びたようにビクンッて強張る。

虫の羽音くらいのわずかな音……。
反応しちゃったのは、聞き覚えがあったからだ。

夢から醒めたみたいに、素早く彼の手を振りほどく。

「どうかした?」

怪訝そうな声にも構わず階段を駆け下り、住宅街に伸びる道路をぐるっと見渡した。

「今、音が聞こえなかった?」
「音? どんな?」

もうすぐお昼のせいか、どこかの家から子どもの声が聞こえる。
ただ、人の姿は見えない。
路駐の車が何台か……ううん、誰も乗ってない。


「えっと、カシャカシャって……カメラのシャッター音みたいな」
「カメラ? いや、全然気づかなかったけど」

「……そう?」
気のせい、かな。

「パパラッチを警戒してる? 大丈夫だって。そのためにわざわざ静さんに頼んだんだろ。実際今のユウは別人だし」

確かに、その通りだ。
まぁそれに……主演クラスならともかく、わたしのプライベートを撮ったってネタになりようがないわけで。気にしすぎ、だったかな……。


「ユウ」

横から伸びてきた手が再びわたしのそれに触れ、そのまま指先が絡まった。
こ、これ、恋人繋ぎってやつ……?

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