私だけを愛してくれますか?
「いってくるよー」
ひっくり返って寝てるドンちゃんに声をかけ、自宅を出る。
うちの家は京都の北山というところにある。
父は繊維問屋『吉木織物(よしきおりもの)』を経営していて、五歳上の兄も副社長として勤めている。いわゆる家族経営の会社だ。
兄は二年前に結婚して家を出たため、現在は両親と私とドンちゃんの三人と一匹で暮らしている。
初めて会う人に自己紹介をして、実家が繊維問屋だというと、みんなに『なるほどね』と言われる。
だって『吉木織物』の『吉木美織』なんて。もう一捻りできなかったのかと切実に思う。
でも、兄の名前は『織人(おりと)』だ。『吉木織物』の『吉木織人』の方がもっとヤバイ。
『織る人』って!
『美織』もどうかとは思うが、『織人』よりはマシだと諦めるしかない。
ただ、兄は自分の名前が好きみたいなのだ。私には信じられないけれど。