私だけを愛してくれますか?

「吉木は催事のプロや。何でも相談してくれ。志乃ちゃんには、男より女性の担当者の方がいいやろ?」

副社長はからかうように、若旦那の肩をポンポンと叩いた。

知り合いとかのレベルじゃない。これは友だち以上の付き合いがあるわ。
そういえば、副社長と若旦那は同じくらいの年齢かも。

何が「伝手」よ。始めから勝算ありの交渉だったなら、そう言って欲しかった。こちらは、交渉結果がわかるまで胃が痛むくらい心配したのに。

若旦那は副社長を無視したまま、私に向き直った。

「妻のことをよろしくお願いいたします」

ニッコリと挨拶をしてくれる。

「承知いたしました」

副社長からダメ出しをされたところだが、定番の返事をした。

瑠花ちゃんの言う通り、若旦那はいわゆるイケメンのど真ん中にいるような人だ。

若女将が担当者でよかったかも。この若旦那はいい人そうだが、私は苦手なタイプ。

「早速ですが、どのようなお店にするか、考えてきてくださいましたか?」

とにかく時間もないことだし、仕事を進めなければならない。

「こ、こんな感じはどうかなと思って、考えてきたんですが」

志乃さんは、こちらの要望に合わせてきちんと考えをまとめてくれていた。

要望書を見ながら細かいことを質問するが、一生懸命答えてくれる。

取り引き先の奥様に言うのは失礼かもしれないが、『いい子だな』というのが若女将に対する印象だった。

私は一生懸命に頑張る子が無条件に好きだ。だから瑠香ちゃんや京極君もしっかりと育てたいと思っている。志乃さんも、そう感じさせるものを持った人だった。

話を進めるうちに、志乃さんがキラキラした目で私を見始めるのがわかる。

なんか既視感。どうやら新たに弟子が出来たようだ。

まぁ、イベント成功の為にも全力でサポートしましょ。

心の中で微笑ましく思いながら、打ち合わせを終了した。

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