私だけを愛してくれますか?

いつものようにカウンターの一番端に座る。

「久しぶりやな。忙しかったんか?」

熱いおしぼりを渡してくれながら、蓮が訊ねてきた。

「イベントが近いから忙しいけど、今日は鋭気を養いにきた」


最近は冷たいおしぼりのところが多いけれど、やっぱり熱いおしぼりが気持ちいい。
顔も拭きたいところだが、さすがに我慢。

「今日は長岡京の朝掘り筍と、愛媛産の鯛があるけど。最後のご飯は、筍ご飯か鯛めし、どっちにする?」

カウンターの向こう側から華が問いかけてきた。

筍ご飯と鯛めし?
なんと、それを選べというのか!

「そんな難しい選択ある?」

困り果てて華を見ると、「じゃあ、どっちも少しずつ食べ」

クスッと笑いながら、最高の選択肢を用意してくれた。

「わーい」

このお店はメニューがなく、その日に仕入れた物によって出される料理が変わる。

私がいろんな種類を食べたがるので、友だち特権で少量ずつをたくさんの種類出してくれるのだ。


料理と共に飲むのは、生ビールを一杯、その後は冷酒を一合だけ。
美味しい料理とお酒をいただきながら、友だち夫婦と楽しい時間を過ごすのは、最高の癒しだった。

今日は、若竹煮、鯛のお造り、アスパラの白和えが、生ビールと共に出される。

キンと冷えた生ビールを飲み、お出汁の染みた筍を食べた。

長年住んでいる京都の良さを感じるのはこんな時だ。

『夏・京都』では、京都の良いところを府外の人にもアピールする。

多くの人に京都のよさを知ってもらえるようにがんばらないと。

今回は出せなかったけど、京都のおばんざいフェアなんかもいいかもなぁ。

ぼんやりとしていて、ハッと気づく。

また仕事のことを考えてた!

こんな憩いの時なのに、ほとほと呆れる。


それからは、華の美味しい料理だけに集中することにした。

最初の約束どおり、筍ご飯と鯛めしを少しずつ出してくれたのを大満足で平らげ、最後に抹茶のアイスクリームで締めた。

私は〝一人ご飯〟が全然平気だけど、美味しい物をいただいた後は、『美味しかったね』と誰かと言い合いたい気持ちにもなる。

お一人様生活を見直す時期かもなぁ…

チラッとそんな考えが頭をよぎったので驚く。

華の料理は他人の人生観も変えるのか!

改めて尊敬の念を覚えた。


お客様が立て込んできたので、席を立つ。

蓮と華は、私がいろいろと悩んでいた時にずっと側で支えてくれた友人だ。

二人が人生をかけて始めたお店が繁盛して、本当によかった。


『また来るね』

口パクで華に挨拶し、小さく手を振る。華が控え目に微笑んでくれた。

お会計を済ますと、店の出口まで蓮が見送ってくれたが、何か言いたげにじっと見てくる。


「何?」

「この前、優吾が来た」

思いがけない名前を聞いて立ち止まり、気まずそうな顔をする蓮をまじまじと見つめた。

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