想いを『時』の砂に乗せて
泣き崩れる彼女を置いて、彼はまた宛てのない旅へ…
彼女との小さな想い出も、全て捨て去るつもりで……

………


「俺はちっぽけだな……」

広大な砂地を見て思わず呟く。

どれだけ歩こうと、彼女を忘れられない。
生きて出られるかも分からないというのに、今は彼女のことばかり思う。

この砂はどこまで続くのだろう?
人の一生を全て、砂時計の砂で表すことがあるとすれば、こんな量になるだろうか?

何かをやり直すために、計り終える前に再びひっくり返し直すことはあるのだろうか?


この砂は容易に自分を覆い尽くすことができる。
何の片鱗も残すことなく、この砂に取り込まれたとすれば、自分は彼女を忘れられるだろうか……

サラサラサラサラ……

彼の遠くで砂が、表情の無い灰色の空からこの地に舞い落ちる。

誰かの『時』が進んだのだろうか?
戻れない『時』を、落ちる砂が知らせて…

力無く笑う自分。
彼は自分のした想像に、さらに想像を重ねた自分自身が酷くおかしく思えた。


いつの間にか下を向いていた顔をぼんやりと上げる。

…誰かがいる。
誰も居なかったはずの自分の遥か前を、力無く歩き続けている一つの影。

「…!」

男は気力を振り絞り駆け出した。
砂ばかりの地に足を取られながらも、前にいる誰かに追い付こうと。
彼はなんとかその誰かに、確実に近づいていった。

ところが、

「…あ……」

ここに居るはずの無い者。
実体ではなく、半透明なその姿で、疲れ切った様子で歩いている。

「…お前…どうして……」

それは今までの人生で、最初で最後に惚れたあの娘だった。


一目惚れだった。
立ち寄った街で困っていた彼女を見かけ、彼女の手助けをしてやると、彼はしばらくその街に居付く気になってしまった。

しばらくして噂に聞くと、彼女は良家の娘で、優しく気立ての良い性格も、柔らかな表情を浮かべる姿も相まって、誰からも好かれているという。
彷徨いながらその日暮らしをする自分には釣り合わないと、彼は想いも告げずに彼女の前から姿を消した。

噂通り、街で一番の男のもとに嫁いだと聞いている……
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