恋に異例はつきもので
 わたしはまだ、さっきのアクシデントのことが頭から離れず、上の空だった。
 でも部長はもうそんなこと、きれいさっぱり忘れてしまったように企画のことを話し続けた。
 わたしが相槌を打つので精一杯だからか、いつもより若干おしゃべりだったけど。

 そして、タクシーが私の家の前に着くと「ゆっくり休めよ」と、わたしを降ろし、車に乗ったまま、片手を上げ、あっけなく走り去っていった。

***
 
 部屋に戻ったわたしは着替えもせずにしばらく床に座り込んでいた。
 
 そのときふと、柑橘の香りを感じた。
 部長のオーデコロンの移り香……
 
 それに気づいたとき、わたしは胸に腕を回し、ぎゅっと自分を抱きしめていた。
 
 もうこれ以上、自分の気持ちをごまかせない。  

 そう……
 わたしはもう、すっかり部長に心を奪われていた。
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