コンチェルトⅡ ~沙織の章

沙織が 紀之との結婚を 父に話した時 
 

「社長の家に嫁いで 会社に何かあれば 無一文になるんだぞ。わかっているのか。」

と父は 沙織に言った。

そのとき 沙織は
 
「そんなこと わかっているわ。どんな苦労も 紀之さんと一緒なら 乗り越えられるから。」

と答えた。


でも その時の沙織には 父の言葉の 本当の意味は 解っていなかった。
 

豊かな生活は 永遠に続くと 思っていた。


今だって 沙織は そう思っている。

この幸せが 壊れることなんて 考えられない。
 

多分 紀之も そう思っているだろう。

生まれた時から 裕福で。

経営者になるための教育を 

受けて育った紀之だから。


今の樹の様に。


でも この幸せは 湧いてくるものではないと 沙織は気付いた。


お父様が 会社を守っているから 

みんなが 豊かな生活を 続けられた。


これからは 紀之と智之が お父様のように 会社を守っていく。


豊かな生活を続けるために。
 

経営者は孤独だ。

 
今 上手くいっている会社も 何のきっかけで 傾いてしまうかわからない。

少しでも 気を抜いたら すぐに 足元を掬われる。
 










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