捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「十五分ずらしで頼む。失礼がないようにうまくやってよ。姉さん、今英語勉強中でしょう」
「そうだけど。……まあ、頑張るわ」

父のアポイントの相手はシンガポールの製鉄メーカーの取締役。会話はすべて英語だ。父と由朗なら、由朗が英語を話せるので問題ない。
私はこれから相手の秘書に連絡を取り、アポイントをずらさなければならない。もちろん英語で。
現在私はビジネスイングリッシュを勉強中だ。文法や単語は学校でやっているからなんとなくわかるけれど、実際の会話となると難しい。
お客様の方も全く日本語がわからないわけじゃないけれど、そこに甘えないようにしないと。

「奥様もご一緒に来日されてるし、会食に同席されるからお詫びかたがたお花も用意してくれると助かる」

由朗が言うので私は微笑んだ。

「お花はホテル側に手配済み。あと、由朗、これを持って行って。かんざしと櫛よ。奥様、日本文化がお好きだそうだから、お土産に」

用意しておいた紙袋を手渡すと、由朗が感嘆の息をついた。

「姉さん、さすが」
「お褒めにあずかり光栄です」
「アポイント、上手にずらせたら、もっと褒めるよ」
「プレッシャーかけないで」

胸を押さえて眉をしかめる私に、由朗は笑いながら総務のオフィスを出て行った。
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