捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
エピローグ



カレンダーの六月には丸い印がついている。記念日の印だ。今年はディナーに行こうかと奏士さんは言っていた。大丈夫かしら。
私は縫物の手を止め、ふうと嘆息する。

「ママ、めーよ。めー」

私の膝の上によじ登ってきたのは二歳の娘、里衣(りい)だ。私が縫物にかかずらっているのが面白くないみたい。しきりに邪魔をしてくる。

「駄目よ、りーちゃん」

針が危ないのでクッション型の針山に戻し、娘を膝から下ろす。しかし、めげずによじ登ってくる。誰に似たのか、里衣は体力があり、野生児といってもいいくらいやんちゃで健康だ。
今も私の縫物をやめさせるために全力である。
こうなった娘はコントロールが効かない。イヤイヤ期も手伝って、注意を向けようと泣き叫ぶ未来が見えるので、私は黙って裁縫道具を片付けることにした。

「よしおじちゃんのところに赤ちゃんが産まれるから、ママ、プレゼント作ってたのよ」

昨年挙式した由朗と沙織さんの間に、間もなく赤ちゃんが産まれる。私は暇を見つけてスタイを作っていた。里衣がお腹にいるときに何枚も作ったのだけれど、それを見た沙織さんが妊娠したらほしいと言っていたのだ。
だからちょっとだけ。趣味程度のものだけれど。
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