不条理なわたしたち
「住所も知っておかないと不便だよね」

私が目を見開いている間にそこに住所まで記入した。

「あとは葵ちゃんと証人欄だけだね」

そして私に笑顔で婚姻届とボールペンを差し向けた。

「……婚姻届は、書けません」

「ノリで書いてくれるかと思ったんだけどな」

蓮水さんはわざとらしい悔しそうな顔を作っている。

彼、何気にお茶目なところがあるが、目の前の婚姻届にそれどころではなくなる。

私はどうすれば良いのだろう。
私はどうするべきなのだろう。

困惑していたら、頭にポンと優しく大きな蓮水さんの手が乗った。


「無理強いは良くないね。一旦引くよ。俺もお風呂に行くね」

蓮水さんが一旦だが引いてくれて、ホッと息を吐いた。
< 53 / 120 >

この作品をシェア

pagetop