奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「うん」
敏弘はそれでよかったというように、奈美の背を優しく撫でてくれた。
病室で奈美が『梨音ちゃんが元気になったら、キチンと話しをしてください。ホントにいい子なんですから』と必死で梨音のことを話したら、『ありがとう、梨音のこと大切に思ってくれて。必ず話すと約束するよ。俺にはもったいない人なんだ』と拍子抜けするような返事だった。
「きっと梨音ちゃんが大切だって痛いほどわかって、後悔しているんだな」
敏弘はポツリと奏を思いやる言葉をこぼしたが、奈美は梨音の心の傷の深さが気にかかる。
「さあ、帰ろ!」
奈美も軽い疲労を感じていたが、梨音と奏のことを考えるとまだまだ気は抜けない。
連絡は入れておいたが、義母の心配している顔が目に浮かぶようだ。
「ああ、もうお月さまが出ているわ」
奈美は夜空を見上げて、やや欠けた歪な月の形を見つめた。
「お月さまって形は変えるけど、まん丸なこと自体は変わるわけじゃあないんだよね」
欠けたように見えて、球体には変わりないはずだと敏弘はよくわからないことを言う。
(一時は離れてしまったとしても、梨音ちゃんと彼の関係ってもとに戻らないのかな)
敏弘の話を聞いて、奈美はそんなことをふと考えていた。