奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


***


深夜に帰宅した奏は、かなり疲れていた。
このところ外資系の会社との取り引きがあって、難しい交渉が続いていたのだ。
梨音とバレンタインを過ごしたくて無理をしていたから、一刻も早く身体を休めたい気持ちでいっぱいだ。

「お帰りなさい、奏さん」
「まだ起きてたのか、梨音」

ぎゅっと梨音を抱きしめると、緊張の連続でガチガチだった全身から力が抜けていく。

「お疲れ様でした」
「このままじっとしててくれ」

梨音の存在だけが奏を癒してくれるのだ。

「あのね、奏さん」
「お帰り、義兄さん」

梨音の声を遮るように京太の声がして、思いがけない義弟の姿が視界に入ってきた。

「京太、どうして……」

こんな時間にここにいるのかと言いかけたら、京太の姿が不自然だ。
シャワーを浴びたばかりなのか、髪が濡れているし上半身は裸だ。

「どういうことだ?」

「あ、あのね……」

梨音が話そうとしかけたが、京太の方が先に口を開いた。

「あ~あ、ばれちゃったねえ」

生意気にも感じられる、ぞんざいな物言いに奏は驚いた。
京太は養子になってから、自分に対してこんな態度を見せたことがなかったのだ。

「京太さん、体調はもういいの?」

か細い声で梨音が京太に尋ねている。どういうことなのか、ますます奏は混乱する。

「そんなウソつかなくていいよ」
「え?」

京太は奏に向かって、不敵な顔でニヤリと笑った。

「ゴメン、義兄さん。僕たち、そういう関係なんだ」


奏は絶句した。何を言い出したかと思えば、梨音と『そういう関係』だと告白しているのだ。


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