奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


(梨音と暮らし始めてどれくらいになるだろうか……)

 広い湯船に浸かりながら、ふと奏は思い返していた。

(梨音の親父さんが亡くなった時からだから、もう4年か)

あの頃、すでに恋人として付き合ってはいたが梨音は高校3年になったばかりだった。

ひとりぼっちになった彼女に『一緒に暮らそう』と告げた時の戸惑った顔。
まだ10代の彼女に、同棲するというハードルは高かったはずだ。
8歳年上の奏は、『高校卒表までは清い関係でいるから』と梨音に約束した。
自分にとって厳しい縛りだったが、それでも彼女を手放すよりマシだと思えたのだ。

(梨音とはじめて会ったのは……ずいぶん前だな)


***


奏がこれほどまで溺愛する梨音に出会ったのは、かなり時を遡る。

奏の父は間野(まの)コーポレーションの創業家の長男で押しの強い人物だった。
母の敦子(あつこ)は若い頃はピアニストとして人気が高かったらしく、その美顔を父が見初めて強引に結婚したらしい。

母は父の希望で家庭に入ったために演奏活動からは引退していた。
だが音楽界には影響力を持ちたかったのか、夫の財力でコンクールのスポンサーになり審査員も兼ねていた。
才能のある子を見出して育てるのが夢だったらしく、優秀な子を探していたようだ。

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