奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


奈美はさらりと話してくれるが、敏弘や章子がいたとしても家を出てからの出産は大変だったことだろう。

「生まれたばかりの昴を見て、やっと私の親が折れたの」
「奈美さん、よかったですね」

それでやっと小暮家の人間になれたと奈美は言う。
今となってはふたり目も授かったし、いい思い出だと奈美は笑った。

「こんな私でよかったらなんでも相談に乗るからね!」
「ありがとうございます」

屈託なく梨音としゃべっていた奈美が、少し真面目な表情になった。

「梨音ちゃん、赤ちゃん生まれてもうちで働いてね」
「もちろん、そのつもりです」

梨音の返事を聞いて、奈美は安心したように微笑んだ。

「最近は梨音ちゃんのお陰でお店も順調だけど、この近くに大型商業施設が出来るって噂もあるからね。お義母さんと敏弘さん頑張ってるのよ」
「知らなかった」

小さい商店街では大きなショッピングセンターには太刀打ちできないだろう。
今のうちに『日暮亭』も人気を高めておかなければ、生き残れないかもしれないと奈美は言う。

「ま、アタシたちが気にしてもしょうがないけどね」

梨音が店の経営状態まで気にしなくていいよと、奈美は話を切りかえた。

「梨音ちゃん、これからお腹出てくるよ~。動くのもめんどくさくなるくらい大きなお腹になるんだから!」
「そうなんですか?」
「私のお古のマタニティーでよかったら持ってくるね」
「助かります!」

奈美と話していると自分がどんなふうに変わっていくのか想像もできなくて、梨音は少しマタニティライフが楽しみになってきた。



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