凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
「弱まったか?」

 椎名さんが窓外を見やる。私も暗闇に目を凝らして、街路樹の枝葉の揺れが小さくなっているのを確認した。

「今のうちに行きますね」

「ああ、気をつけて」

 会釈をしてドアを開け、傘をさして転ばないように、でも早歩きでマンションのエントランスまで急ぐ。

 屋根がある場所に着くまで、うしろを一度も振り返らなかった。傘を閉じて息を整えるよりも先に車があった方へ身体を向ける。

 闇と同化した車体のハザードランプが点滅し、やがてゆっくりと走り出す。

 視界から消えても私はその場から動けなかった。

 一瞬、離れがたいと思ったのは、椎名さんと過ごす時間が貴重だというのを理解しているから。

 昨日と今日は特別な日。明日からは日常に戻る。

「目が回るような休みだったな……」

 誰もいないエントランスで呆けていたら、雨が再び横なぐりに吹きつけて慌てて部屋へと向かった。

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