この夏、やり残した10のこと
着筆、掻い繰る追懐の糸


病室のベッドの中。上半身を起こして、一冊の少し大きめなメモ帳にペンを走らせる。
ふと窓の外を見れば、柔らかな日差しと共に桜の花びらが舞っていた。

私は人より、心臓が弱いらしい。「弁」が十分に動いてくれなくて、正しい方向に血液が流れていかないのだという。
息切れや動悸、呼吸のしづらさ。私の体は、着実に限界が近付いていっていた。

まだ物心もついていない頃、手術をした。そこで死んでしまう確率の方が高かったのだというのは、あとから聞いた話だ。
手術は成功したけれど、合併症に悩まされた。

お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、すごく悲しそうな顔をしていて。でも、正直に言ってしまうと、私はずっと、余生を楽しんでいるような感覚だった。だってもともとは、とっくに死んでしまっているはずだったんだから。


『出雲が学校に来るの、レアってことだろ。だから、今日会えた俺も、みんなも、超ラッキー』


私の世界は病院の中だけだったのに、霧島くんと出会ってから、学校という世界にもっと足を踏み入れたくなった。
彼のおかげで、サッカー部のマネージャーをしていた薫と友達になることができたのだ。


「遥香~! 起きてる?」

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