私は1人じゃない




車中で何も話さずにまた男性の家に帰ってきた。


テーブルを真ん中に向かい合わせで座る。


今冷静だから気付いた。


この男性の顔びっくりするくらいに整ってる。


かっこいいけど涙袋があって目が大きくて可愛い。



かっこかわいい感じの人だ。


喋り方は物腰があるというか、柔らかい。


いわゆるギャップがある人。


「あの、まず名前聞こうかな」
「くまt、、霧野 杏衣」


ママが霧野さんと結婚する前は熊谷だったから旧姓が出そうになった。


「俺は和藤 勇斗っていうよ」
「分かりました」


「なんて呼べばいい?」
「杏衣でいいです」


「いや、上の名前呼び捨てはカレカノだけだから、杏衣ちゃんでいい?」
「じゃ、それで」


「私はなんて呼べば…」
「呼び捨ては無理だろうから、勇斗くんでもニックネームでもいいから」


「勇斗さんで」



カクカクになってしまう。


男性の名前を上の名前で呼んだことぐらいあるのに緊張してしまう。


「君付けの方が親しくなれそうなんだけど、まぁいいや、慣れるだろうから」
「……慣れる?」



「今日から杏衣ちゃんの家はここだからね」
「!?!?!?」


声は出なかった。


でもびっくりしている。



だから目が大きく見開いてる、はず。


「家にはどう考えても戻れそうにないしこっちの方がいいと思うよ、それに、このまま放っておけない」



勇斗さんは私の目を見て逸らさない。


絶対に私を離さないと言っているみたいに。


実際に行くところもないし、しばらくは勇斗さんの家にいよう。


「分かりました」
「杏衣ちゃん、敬語なし」


「分かった……」
「うん、これでいいんだよ」


「ゆっくりしていいからね」


勇斗さんの一瞬の微笑みに今まで感じたことのない安堵感を覚えた。
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