私は1人じゃない




私のためにも勇斗さんのためにもなる。


勇斗さんの顔を見るだけで辛いのに、一緒に住むなんて胸が引き締められる想いをしてしまって辛い。



片想いでも楽しい片想いをしたい。


辛い片想いなんてしたくない。


勇斗さんの顔を見ると悲しそうな顔をしている。


そんな顔しないで。


梨沙子先生を家に呼べるんだから喜んでよ。


「なんで?」
「もう一人暮らししたいんです、ずっと勇斗さんの世話にかかるわけにはいかないから…」


「そんなの気にしないで、俺には杏衣ちゃんが側にいて欲しいんだ」
「私は1人でいたい…………」


「俺のこと嫌い?」



ううん、嫌いじゃない。


好きだよ、大好き。


でも勇斗さんには梨沙子先生がいるから。


私は梨沙子先生と勇斗さんを恨まないよ。


私が辛い時にいつも話を聞いてくれた梨沙子先生。


辛い状況から抜け出させてくれて人に頼ることを知って笑顔をくれた勇斗さん。


本当にありがたいからこそ2人には幸せになって欲しい。


そのためなら自分の気持ちにウソをつくよ。


「うん、嫌いになった、だから離れたい」


いくらウソでもこういうウソをつくのはきつい。


なおさら好きな人なら。


本当に涙が出そう……


下を向いて顔を手で覆う。


落ち着こ、落ち着こう………


勇斗さん、私を思いっきり嫌いになって、


突き放してよ。


そうしたら勇斗さんへの気持ちを捨てられるから。


「分かったよ………」



何も返事をせずに勇斗さんの最後の顔を見ないまま数学教材室を出た。



これでいい。


これでよかった。


勇斗さん、ありがとう。


ダイキライだけどダイスキ。
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