鬼は妻を狂おしく愛す
雅空が急に黙り、俯いた。
美来は雅空の顔を覗き込み、スマホ画面を見せる。

【ごめんなさい。
言いたくなければ、構いません。
鬼頭さんが私を見かけてたってことは、この辺はよく通るんですか?】

【美来、今から言うことを退かないで聞いてほしい。
いや、お願いだから俺を嫌わないで受け入れてほしい。
信じてもらえないだろうけど、俺は美来に惚れるんだ。
やっとこんな風に話すことができたから、今さら離れるなんてできそうもないんだ】
雅空の言葉に、美来はゆっくり頷いた。

雅空は名刺を美来に渡した。

“鬼頭組
若頭 鬼頭 雅空”

美来は目を見開いて、フリーズする。
雅空は美来の肩を優しく叩いて、スマホ画面を見せた。
【やっぱり、退くよね?
ごめんね、こんな俺が話しかけたりして。
でも、信じてほしい。
美来と話がしたいと思ったのは、純粋にただ美来のことが知りたいと思ったからだし、惚れてるってのも本当のことだよ。
これでもし、美来が俺に会いたくないって言われても、無理やり俺のモノにして傷つけるつもりもない。
だからはっきり言ってくれて構わないよ!】

美来がゆっくり、スマホに文字を打つ。
その数分間。
雅空にとっては、何時間も経ったように感じていた。

画面を見せた美来。

【本当は、もっと前から気づいてました。
鬼頭さんが、向こうのベンチにいらっしゃるの。
最初はあまり気にしてなかったんですが、いつも私がいる時に来られて私が工場に戻る時に帰られてたので………
鬼頭さん。とても綺麗な顔されてるから、密かに人気者だったんですよ。
だから私、もしかしたら私に気があるじゃないかって一人で自惚れてて……
まさか、本当に私を想っててくれたなんて、びっくりしてます。
正直、ヤクザさんだと聞いて退いちゃいました。
でも、今目の前にいる鬼頭さんはとても穏やかで優しい表情をされているので、私ももっと鬼頭さんを知りたいと思ってます】
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