最低なのに恋をした

お見合いとは

「美月に見合いの話がきてる」

兄のお店のカウンター席で夕食を食べてる時、突然兄から告げられた。

「は?」

その言葉に思わず兄の顔を凝視する。

幸せな気持ちでカルボナーラを食べている時にそんな事を言われたらイラッとしてしまう。

他の従業員が近くにいないタイミングで話してきたのは、兄なりに考えてくれたのだろうけど。


「見合いっていっても父さんの知り合いに結婚相手を探してる人がいてそれで」

「それで?」

普段話す声よりも低めの不機嫌な声になる。

「それで、父さんも美月の話を出したらしくて、食事でもって事になってる」

勝手に人の話をするな!と父に叫びたい。

「でも私、何も言われてないよ」

「俺が伝える事になったから。それで今伝えた」

今日は火曜日ということもあり、お店はそこまで混んでいない。従業員も兄の他に3人。

1人暮らしの私はご飯をつくるのが面倒な時はこうして、兄のお店に来て夕飯を食べている。
父もその事を知っているから伝達係を兄に頼んだのだろう。

「嫌だよ。断って」

フォークでクルクルとスパゲティを巻き取りながら、兄に強めに伝える。

彼氏に振られたとはいえ、まだ25歳。今すぐ結婚したいというわけではない。

兄から溜息が漏れる。

「まあ、そうなるよな。相手はイケメンらしいけど」

「イケメンとか関係ないよ。っていうかイケメンなら周りが世話を焼かなくても寄ってくるでしょ」

イケメン、と聞いて専務の顔が浮かんでしまった。専務は顔は良い。

専務の秘書になって1ヶ月経つが見慣れない。
綺麗な顔をしてるなと顔を合わせるたびに思う。

そしてうちのイケメン専務は何か出てるのかと思うほど、女性が寄ってくる。

私が把握している限りでは誘いをやんわり断っているようだけれど、プライベートではわからない。
イケメンとはそういうものだ。

「イケメン見たくない?」

「イケメンは間に合ってる!」

「え?」

兄が私の言葉に驚いた顔をする。

「間に合ってるのか?」

探るような目で私を見る兄を無視しながら、カルボナーラを完食した。

面倒な事を聞かれる前に帰ろう。

「お兄ちゃん、お見合いは断ってね」
兄に念を押し椅子から立ち上がる。

バッグから財布を出しお金を払おうとした時、隣に気配を感じ横を見た。

「お見合いって?」

そこには数時間前まで顔を合わせていたイケメンが立っていた。

兄がイケメンにカウンター席に座るように促す。

そういえば、さっきドアが開く音がして兄が「いらっしゃいませ」と声をかけたなと思い出す。
気にもとめていなかったがまさか専務だとは思わなかった。
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