最低なのに恋をした
「ここで安西さんと会った時?」

専務が少し首を傾げる。あざといな。

「はい。そうです」

専務は笑顔になり私の顔をじっと見つめる。

「いいよ。わかった。安西さんとこのお店で会えるってことだよね」

「え?まぁ、そうですね。会った時…」

専務の顔を見ながら自分の発言を振り返る。
名案だと思ったが、これは専務を誘っているともとらえられかねない…かもしれない。

早まったかな…と後悔しかけるが考えるの面倒になってきた。
専務からのお金もこのままっていうわけにはいかないし。
兄のお店なら安全だろうし。まあいいか。

「それでは失礼します」
専務に頭を下げ、兄のところへ行く。そこで専務の飲食代は私が払うとと伝えた。
怪訝そうな顔をする兄に説明は次回という事だけど伝えお店を出た。


今回のお見合いは父にも会うつもりはない事を告げ断ってもらった。それなのに。

また新しいお見合いの話が父の元に届いたという。その相手は佐田コーポレーションの御曹司桜木海斗だというから訳がわからない。

両親も兄も困惑している。
佐田コーポレーションとうちの家業では釣り合わない。サメとサバくらい違う。

兄にお店で会った上司が御曹司の桜木海斗だという事を伝えた時の驚きの表情といったら。

「あの上司って、美月に酒をかけた女と一緒にいた奴だよな?」

兄はやっぱり覚えていた。
私にちょっかい出そうとしているように見えていたらしく、印象が良くない。

「確か、あの後も1人で来店してたんだよ。女にだらしなさそうだから美月と会わないようにしたかったのに」

兄は私に何も言わなかったが心配していたらしい。

「まさか上司になってたとは思わなかった」

「しかもアイツの飲食代を美月が払うって言い出すし」

今まで我慢していたらしいモヤモヤを吐き出してくる。

「飲食代の件はあのあとすぐ説明したじゃん」

兄を宥めるようにフォローする。

「気に食わない」

兄はイライラを隠さない。

「専務に確認してみるよ。今、忙しいし。私とお見合いしようなんて理由があると思うんだけど」

現在、佐田コーポレーションは新規でホテルを建設する計画が進行中なのだ。専務は休日返上で働き詰めだった。

「わかった。うちみたいに小さい飲食業が佐田コーポレーションに見合い断るなんてできないから。美月とその上司が話し合ってくれるのが1番…なんだが気に食わない。無理難題言ってきたらすぐに兄ちゃんに連絡しろ」

ブツブツ、ブツブツ兄の文句は収まらない。

まずは専務にお見合いの理由を聞いてみよう。

全く、何を考えているのか。
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